ヒポクラテスは、「医学の父」とも呼ばれ、科学としての医療を初めて形にした人だといわれます。
ご存じ、ソクラテスやプラトン、アリストテレスらが活躍した時代の話です。
ヒポクラテスは、いくつかの論文を残していますが、その中で、「医術の起源は魔術ではない」ことを論証しています。
医術の起源は調理術、つまり食物についての知識や技法だ、と説いています(「古い医術について」)。
また、当時"てんかん"は、突然の発作で全身が痙攣し、意識不明になったりするので、
神の怒りに触れて起こるのだと考えられていました。
しかしヒポクラテスは、それは脳の病気だと論証しました(「神聖病について」)。
これも、医学と宗教を切り離した合理的精神の現われにほかなりません。
とくに彼の医学は、客観的な観察を重視したこと、自然の治癒力を尊重したこと、「予後学」、つまり患者の経過の予測に心を配ったこと、環境と健康の関係を重視したことなど、かずかずの注目すべき問題提起をしています。
また、医療者の倫理についても、鋭い指摘をしています。
それらは、いまの人が読んでも、傾聴に値する立派な指摘です。
それどころか現代医療は、ヒポクラテスが指摘した視点を、いま一度、再確認する必要さえあると考えられています。