一九三〇年(昭和五年)の「国勢調査」によると、当時の一五歳以上の日本の人口は四〇八七万人です。
うち女性は二〇三七万人と、半数を占めています。
女性の就業人口は一〇五八万で、その六割の六四四万人が農業に従事しています。
こんなにも多くの女性が、農業という職業を持っていたということです。
当時、農業に従事していた女性の生活を、リアルに描いたすぐれた本があります。
吉野せい著『漢をたらした神』(弥生書房刊)という本です。
「梨の出荷が終わるまでは栓をしておくと冗談半分に私はいいながらも、臨月膓の重みをこらえて出荷を終え、あらかた残果の整理をした三日目、あつらえたように四男を生んだ...」
吉野さんは、夫である詩人の吉野澱漸さんと一緒に、大正の末から福島県の陣距隣山系の荒地で開墾に従事し、四人の子どもを育てた女性です。
梨の出荷の農作業を出産の三日前まで行っていたという吉野さんの生活は、特別な農家の、特殊な状態ではなく、当時の農家なら、ごく一般的な生活だったろうと思います。
男性と同じように、いや、ときには男性以上に農作業に従事し、その合間をぬって家事や育児をこなしていた当時の女性たちの苛酷な労働と暮らしが見えるようです。